片頭痛
migraine
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片頭痛は慢性頭痛の中でも症状が強く、日常生活に大きな支障をきたすことがありますが、軽視されることがあります。
片頭痛の患者さんのお声を聞きますと、我慢をして耐えていることが多いです。片頭痛は命にかかわる頭痛ではありませんが、非常に患者さんを苦しめることがあり、生活の支障が大きいです。
片頭痛は片側だけでなく両側にも生じることがあり、拍動性に限らずしめつけの頭痛を感じる方もいます。
ひどいと寝込むようになり、4時間以上と長く生じます。動くと改善する緊張型頭痛と異なり、頭を動かすと頭痛が増悪します。
頭痛だけでなく、明るい光や大きい音、普段きにならない臭いが不快になります。嘔気・嘔吐を生じることもあり、頭痛以外の症状も苦痛が伴います。
肩こりは緊張型頭痛だけでなく片頭痛でもしばしば認めます。
視野の一部にギザギザとした光や見えない部分が前兆として出現したり、痺れや脱力が出現する方もいます。
同様の頭痛発作が過去に5回以上週2回~月1回程度
発作として現れ、4~72時間持続する
月経時に女性ホルモンが変動するため、片頭痛が増悪することが知られています。
月経時の片頭痛は重症度が高く、持続時間が長い、薬剤の効果が乏しいことが知られています。
日本における慢性頭痛では、緊張型頭痛が最も多く、次に多いのが片頭痛であり、有病率は8.4%でした。
片頭痛は20代~50代の方に多く、働き盛り、子育て世代に多い疾患です。片頭痛が強いと、仕事の能率・生産性の低下、欠勤の原因になることがあり、経済的損失が高いことが報告されています。
片頭痛発作発生のメカニズムとして、現在広く受け入れられているのが「三叉神経血管説」です。なんらかの刺激によって、硬膜血管周囲に分布する三叉神経終末からカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)やサブスタンスPなどの神経ペプチドが放出されると、主に硬膜などの血管周辺で血管拡張、血漿蛋白の漏出、肥満細胞の脱顆粒、神経原性炎症が発生します。神経原性炎症は三叉神経を刺激し、神経興奮が中枢へ伝達されると、大脳皮質で疼痛を自覚します。
片頭痛が強いと、鎮痛剤が必要になりますが、使用回数が多いほどより頭痛の日数が増え、さらに鎮痛剤の使用が必要になるという悪循環になります。鎮痛剤を月に10日以上使用しないことが治療を考える上で重要です。頭痛だから市販薬を使用すればよいということで多用してしまうと、頭痛が非常に強大化してしまいます。
頭痛が生活で困るかたには改善のために医療機関での正確な頭痛診断と治療が重要です。頭痛でお困りであればご気軽に受診をご検討ください。
※表は左右に横スクロールできます。
リスク因子 | オッズ比 | 95%信頼区間 | p値 |
---|---|---|---|
頭痛の頻度5-9日/月 | 6.2 | 1.7-26.6 | 0.005 |
頭痛の頻度>10日/月 | 20.1 | 5.7-71.5 | 0.001 |
頭痛治療薬の使用過多※ | 19.4 | 8.7-43.2 | 0.001 |
※月あたり10日を超える急性期頭痛治療薬の使用
(ロジスティック回帰分析)
(Katsarava, Z. et al.: Neurology. 2004; 62(5): 788-790)
鎮痛剤を月に10日以上使用続けると片頭痛が慢性化する危険があります
(片頭痛が片頭痛をより難治性の頭痛にしてしまいます!)
片頭痛の急性期治療薬として、一般的な鎮痛剤以外に、トリプタン製剤・ジタン製剤があります。これらは医療機関でのみ処方可能であり、セロトニン受容体に作用し、片頭痛による神経炎症や血管拡張を防ぐことで頭痛を軽減させる効果があり、片頭痛の特効薬として使用します。片頭痛発作が月に2回以上、あるいは生活に支障をきたす頭痛が月に3回以上ある場合には、予防薬を検討します。
予防薬には血管を拡張させる薬剤、抗てんかん薬などが有効ですが、片頭痛の病態に重要なCGRPを中和させる注射療法による予防療法が2021年より可能になりました。
予防薬により、頭痛発作の減少、頭痛の強さ軽減や持続時間の短縮、急性期治療薬がよく効くようになる、生活支障が軽減することが期待されます。
片頭痛を慢性化させないためには予防療法が重要になります。
予防療法は片頭痛発作が月に2回以上、または生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上ある方に対し検討。
予防療法のお薬には、飲み薬と注射剤があります。
効果判定には、2~3ヵ月ほど必要です。
※お薬以外に、生活指導などの対策もあります。
また、頭痛発作が起こった時は、急性期治療薬を服用します。
薬局で購入できる市販の頭痛薬には、予防療法のお薬はありません
ピンクのグラフは予防治療薬(発症抑制薬)を使わなかった場合の痛み、青のラインは予防治療薬(発症抑制薬)を使った場合の痛みを示しています。青のラインはピンクのグラフに比べて発作回数の減少や頭痛持続時間の短縮、急性期治療の反応の改善が期待できることから、予防治療薬(発症抑制薬)の使用は生活機能の向上と生活への支障の軽減が期待できます。
片頭痛の対策では患者さんご自身でもできるセルフケアが重要です。当院では患者さんに記入していただいた頭痛ダイアリーをもとに、患者さんごとに重要なセルフケア対策を個別にアドバイスさせていただいています。
※表は左右に横スクロールできます。
薬による治療 | セルフケア | |
---|---|---|
頭痛時の対策 | 【急性期治療】
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|
予防の対策 | 【予防療法】
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※1 NSAIDs(エヌセイズ):非ステロイド系消炎鎮痛薬
※2 CGRP(CGアールピー):カルシトニン遺伝子関連ペプチド
2021年より片頭痛の予防治療としてCGRPを中和させる抗体療法が可能になりました。
「フレマネズマブ:(商品名)アジョビ®」「ガルカネズマブ:(商品名)エムガルティ®」「エレヌマブ:(商品名)アイモビーク®」の3種類が使用でき、月1回注射をします。(フレマネズマブは3か月に1回も可能)
従来の予防内服だけでは頭痛改善が難しかった方にも、頭痛改善効果が期待されます。
15~16 フレマネズマブ:(商品名)アジョビ®の片頭痛改善を示した治験データを示します。
フレマネズマブの使用で1か月の片頭痛日数は約4日減少し、効果は注射した1か月目から早期に認め、効果は長期にわたり持続することが示唆されています。